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高松高等裁判所 昭和40年(ウ)7号 判決

申立人

伊予三島信用金庫

代理人

篠原進

被申立人

高橋製緬株式会社

代理人

津島宗康

主文

松山地方裁判所西条支部が、同庁昭和三七年(ヨ)第五号仮処分申請事件につき、昭和三七年一月二四日になした仮処分決定は、これを取消す。

申立費用は被申立人の負担とする。

事実

申立代理人は主文第一項と同旨の判決並びに仮執行の宣言を求め、その理由として、次のとおり述べた。

一、被申立人は、本件申立人を被申請人として、別紙目録記載の各建物につき、松山地方裁判所西条支部に対し仮処分申請をし、(同庁昭和三七年(ヨ)第五号事件)同支部は、昭和三七年一月二四日「被申請人(本件申請人)は別紙目録記載の各建物に対する申請人(本件被申立人)の占有を妨害する一切の行為をしてはならない」との仮処分決定をした。

二、その後、右仮処分権利者である被申立人は、本案訴訟として、申立人に対し、右仮処分の建物に対する借家権存在確認訴訟を同支部に提起し、同庁昭和三七年(ワ)第三七号事件として、審理された結果、昭和三九年七月二三日、被申立人敗訴(請求棄却)の判決言渡があり、右判決に対し、被申立人から、当高等裁判所に控訴が提起されたが、当庁昭和三九年(ネ)第二五四号事件として審理がなされた結果、昭和三九年一二月三日控訴棄却の判決言渡がなされ、右判決に対し、さらに被申立人から上告が提起されている。

三、右のように本件仮処分の本案訴訟において、第一、二審共に被申立人(仮処分の申請人)が敗訴し、仮処分の被保全権利は否定され、また上告審においても前記判決が破棄されるおそれはないと認められるから、前記仮処分決定は、事情の変更により、それを存続させるべき理由を失つたものというべきである。よつて民事訴訟法第七五六条、第七四七条により、その取消を求める。

被申立代理人は、

一、先ず本件申立を却下するとの判決を求め、その理由として、本件仮処分の本案訴訟事件につき、当高等裁判所のなした控訴審判決に対し、被申立人は、昭和三九年一二月一八日上告を提起し、同年一二月二〇日上告受理通知書の送達を受けた。従つて、本件取消申立は右本案訴訟が上告審に係属した後になされたものであるから、当高等裁判所はこれを審理する管轄権を有しない。

二、仮りに右管轄違の主張がないときは、本件申立を棄却するとの判決を求める。申立人の申立の理由第一、二項の各事実は、これを認めるが、同第三項はこれを争う。本案訴訟は、目下上告審に係属し、第一、二審判決が破棄または取消される虞れがあるから、申立人の本件申立は、失当である。

と陳述した。

疎明方法<省略>

理由

一、被申立代理人の管轄違の主張について。

本件申立は、昭和四〇年一月二二日当高等裁判所になされたものであることは、記録上明白であり、当時既に、本件仮処分の本案訴訟については、当裁判所において、控訴棄却の判決がなされ、昭和三九年一二月一八日本件被申立人より上告が提起され、同年一二月二〇日被申立人に対し上告受理通知書が送達されていたことは、当裁判所に顕著な事実である。

しかしながら、本件申立のあつた当時は、右上告の適否を審査するいわゆる上告受理手続を行なうため、本案訴訟の一件記録は、未だ高等裁判所に存しており、上告裁判所たる最高裁判所に送付されていなかつたこともまた当裁判所に顕著である。かかる場合は未だ上告裁判所への移審の効果を生じていないものと解するのが相当であるから、本件申立当時本案訴訟はなお控訴審たる当高等裁判所に係属中であつて、未だ上告裁判所たる最高裁判所に係属するに至つていないものといわなければならない。ところでいわゆる事情変更による仮処分取消申立事件は、本案が控訴審に係属しているときは、控訴裁判所がその管轄権を有すること民事訴訟法第七五六条、第七四七条第二項、第七六二条により明らかであり、同法第七六二条但書において「本案が控訴審に係属するとき」とは、前記のように控訴裁判所が上告受理手続を行なつている場合をも包含するものと解するのが相当であるから、本件申立については、控訴裁判所たる当高等裁判所がその管轄権を有するものというべきである。従つて被申立代理人の主張は理由がなく、採用できない。<以下省略>(浮田茂男 水上東作 山本 茂)

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